本研究では、破壊駆動力評価における溶接残留応力取り扱い手法について、(1)種々の規格における溶接残留応力影響の考慮方法について、溶接方法や継手形式等の関連因 子影響の考慮方法についての調査、(2)用途やニーズに応じて関連因子の考慮優先度の整理、を行い、簡便かつ高精度な残留応力の取り扱い手法の構築に向けた問題点の整理を行う。
船舶海洋構造物に代表される大型溶接構造物の脆性破壊強度に対して溶接残留応力は破壊駆動力の一つとして影響を及ぼすため、これを定量的に考慮した破壊強度評価が行 う必要がある。一方、強度評価部位近傍の溶接残留応力分布は複雑であり、これを推定するには熱弾塑性FE解析等の比較的労力を有する解析が必要となるため、日本溶接協会規格WES2805等の種々の安全評価規格においては、残留応力分布を大胆に近似した取扱がなされている。溶接残留応力の取り扱い手法について、簡便かつ高精度手法の構築に対するニーズは高いが、複数の規格が存在するため、改めてこれらの問題点を整理し、より良いものを提唱しようとする動きを起こしにくい現状がある。この現状を学会という中立的立場において、再度ゼロベースで見直し、より安全性評価の精度を向上させるための基礎知見を取りまとめることは、船舶海洋工学における材料強度評価研究が他の幅広い分野に影響を及ぼすことを含め、意義のある活動と考える。
上述のように、種々の規格で規定された考え方をゼロベースで照査して、これらの問題点を抽出する動きは、世界的に見ても、本研究提案以外には見当たらない。研究成果はASME・API・BS・IACS 等の海外の維持基準にも発信できると考えられるため、国際的にも研究の波及効果は大きいと期待している。