AIS(船舶自動識別装置)やロイズなどの船舶動静データは、世界の一定規模以上の全船舶を対象に、位置(座標情報)や速度、向き、寄港地、喫水などを時系列的に網羅しており、各船舶の諸元に関する静的情報とあわせ海上輸送分野のビッグデータといえる。従来は、不審船探知、衝突回避、寄港船舶の統計解析などの用途に利用されてきたが、本研究委員会は、これを物流・海運・造船分野へ活用する方法について検討することを目的とする。
具体的な目的は、以下の2 点である。
本研究の特色・独創性は、(1)本来別の目的で取得されたAISなどの船舶動静に関するビッグデータを対象として、貿易統計、税関統計、港湾統計、業界・産業別の統計など関連する様々な統計・データベースも活用しながら、これまで明らかとなってこなかった港湾間レベルの貨物流動量(海上物流データベース)を推計するための手法を確立すること、(2)海運市況予測、造船需要予測、環境影響予測等の様々な用途に活用が期待されるAIS等の船舶動静ビッグデータや海上物流データベースの活用方法・ニーズについて、船舶工学だけでなく、交通・物流、経済、資源工学等の様々な領域を専門とする大学等の研究機関の研究者、AISや衛星画像データを扱う専門家、海運・造船・物流・商社等の各業界の関係者が一堂に会し、議論を行う場を設けること、および(3)議論の結果を踏まえ、各研究者の得意分野に応じて具体的な予測手法を構築・実装すること(ただし研究成果は個々の研究者に帰属)、の3点にある。
なお、本研究委員会は、上記(2)で述べたように推計・構築したデータベースの活用方法に関する包括的な検討も範疇としていることから、strategy研究委員会として位置づけることが適当と考える。
AISやロイズ等の船舶動静データを用いた物流量推計の日本以外の研究例としては、ノルウェーのAdlandらによるものがある。また、フランスのDucretらは、過去150年間のロイズデータをデータベース化し、戦争や植民地の独立、運河開通などのイベントが海運ネットワークに及ぼす影響について研究を行っている(ただし物流量の推計までは行っていない)。わが国においては、船舶海洋工学会で発表された小出・濱田ら(2016)、金本・柴崎ら(2018)、和田・松倉(2018)等をはじめ、取り組みが開始されているところである。
一方、実務の分野では、AIS データの海運・物流、市場予測分野への活用の動きが見られ、国内のそういった活動を糾合して日本の研究拠点を構築することが、本研究委員会の位置づけ(目標)である。