プラスチックごみによる海洋汚染が深刻な水準にあり、その問題への対策を講じることの重要性が近年、世界中で強く認識され始めた。サイズの大きいごみ(レジ袋、飲料水用ボトル等:マクロプラスチック)からマイクロプラスチックと呼ばれる微細片まで様々なサイズのごみが海水中に漂っている事実は数十年前から指摘されていた。最近では、マイクロプラスチックよりも更にサイズが小さいナノプラスチックの存在も指摘されている。動物や魚介類の誤飲による死亡、プランクトンなど微小生物の体内への蓄積が問題視されている。また、マイクロプラスチックは難分解性有機汚染物質(POPs)を吸着する性質を有することから、POPsとプラスチックごみとの共存がPOPsによる化学的悪影響を強める作用があることが報告されている。
したがって、海洋プラスチックの実態把握、挙動予測、回収技術の開発等は極めて重要な研究課題である。そこで当研究委員会では、国内外における政策、研究を含む諸活動の動向を調査し、それをもとに海洋プラスチック問題解決に対し船舶海洋工学分野から貢献するための具体的な方策を提案することを目的とする。
本研究は、既に海洋中に出されたプラスチックが今後どの様な影響をもたらし得るか、また如何にそれらを回収し影響の低減を図るかという観点で研究を行う。この点でプラスチックの使用量を減らそうとする社会動向とは観点が異なる。プラスチックの物理・化学的挙動の計算機上での再現、プラスチック回収のための船舶海洋構造物の設計開発、海洋プラスチックによるリスク評価等は船舶海洋工学分野のこれまでの知見が活用できるものと期待できる。
学術界においてはこれまでに実態把握を主眼とした取り組みがなされてきている。海岸でのサンプリング調査、船舶による実海域サンプリング調査、大洋規模でのプラスチック片分布予測シミュレーションが実施されている。また、プラスチック微細片にPOPs が吸着・濃縮される現象が実験室内レベルにおいて確認されている。
一方、回収を主眼とした取り組みもある。地方自治体ではビーチでのゴミ量調査を実施しデータを公表し啓蒙活動を行っているところもある。また、個人がゴミ回収装置を製作し港等での回収の様子をウェブや動画配信サイトに発表している。
当研究委員会は、学術を基盤にしつつも実態把握だけでなく回収とリスク評価までを手掛けることを可能とする戦略を策定すること目指す。そのために、船舶海洋技術を有する造船業関係者、各専門分野での知見を有する大学関係者を中心として議論できる体制を敷く。